#031 遅ればせながら「進撃の巨人」を鑑賞した件について ~ その④ ※ネタバレあり
シナリオが素晴らしすぎる
今回は「進撃の巨人」についての最終回になります。今回は主にこの作品のストーリー構成について書いていきたいと思います。
まずは有名な話として、この作品の構成は連載前に数年かけてすでに練られていて、巨人や敵の正体も物語の結末も、全て予め決められていたということです。読者や視聴者はまんまと作者の手のひらの上で踊らされていたってわけです。でも、私はその事実を知っても不快感はありませんでした。むしろ作者である諫山先生に対する畏敬の念が深まりました。
練りに練られたストーリー構成と設定。各キャラクターの成長と変化。作者が考えたと言うよりは、キャラクター自身がひとりでに語り出したかのような素晴らしい台詞の数々。作者は19歳で基となる読み切り作品を描き、23歳から連載を開始して34歳で完結させています。そんな戦争も知らない若者が、今の現実世界にもつながる壮大なドラマを描き上げたことに驚きを隠せません。
私はシーズン3までを観てこの物語は先の大戦での日本軍をモチーフにしていると感じていました。自己犠牲、特攻攻撃、容赦無く次々に失われていく命。この作品は海外での人気も凄いことは知っていましたので、外国の方から見てこの日本的な精神性はどう映っているのか不安になりました。しかし、YouTubeで海外の方々の視聴動画を観て自分が間違っていたと気付きました。彼らはれぞれ自国の歴史になぞらえて理解していたからです。人類の歴史は戦いの歴史です。騎馬による特攻などはどの国の歴史にもみられるもので、なにも日本人の精神性だけが成す行為ではないのです。

アニメ版シーズン3Part2 第52,53,54話が完璧すぎる
この3話は凄すぎました。追い詰められ絶体絶命の調査兵団。エルヴィンの演説。特攻。リヴァイの反撃。全身を炎に包まれるアルミン。友を犠牲にしたエレンの後悔。エルヴィンとアルミン究極の2択。リヴァイの決断。
私はまず第52話エルヴィンの「 死んだ仲間もそうなのか?あの兵士たちも、無意味だったのか? いや違う‼ あの兵士に意味を与えるのは我々だ‼」にヤラれました。思わず”心臓を捧げよ”のポーズをとっていました。そして第53話でリヴァイが煙の中から飛び出してきた時は脈拍が150、ジークの口にブレードを突っ込んだ時には170に達しました。アルミンが黒焦げになり、ハンジが生きていてみんなで鎧の巨人をやっつけて、エレンも超大型巨人を倒して、もう情報量が多すぎて感情がジェットコースターになった後のエレンの一言、「 わかってたはずなのに・・・お前が誰よりも 勇敢なことぐらい」で号泣。もう凄すぎて、情報量多すぎて、ジェットコースーターな展開すぎて、悲しんでスッキリして悔しくてドキドキしてびっくりして喜んで悲しくて・・・ たった23分でこんなにたくさんの感情が押し寄せたことはありませんでした。そして第54話でリヴァイは決断します。エルヴィンかアルミンのどちらを生かすのかを。こんな残酷で美しい話をよくも考えついたものだと一人目を閉じて深く頷くしかありませんでした。
アニメは全94話なのでこれらは物語中盤のピークにあたりますが、私はここまで観て少し立ち止まりました。この3話を繰り返し観ました。私が今まで視聴した映像作品(実写・アニメ問わず)の中でもベストだと感じたからです。私は息子に聞きました「この後これ以上のエピソードや展開があるのか? もうこれがピークだろ? これ以上や同じレベルのものがこの後も観られるとは到底思えない」と。そのくらい奇跡の完成度を見せるエピソードなのです。息子はネタバレを恐れて多くは語りませんでした。全話鑑賞して今私が言えることは、やはりこの52〜54話がベストエピソードだと言うことです。しかし この後決して尻すぼみになるわけではありません。むしろシーズン4やラストシーズンの方が物語は深みを増していきます。

”マーレ編” 以降のリアリズム
エレンたちはエルディア人と言う民族です。大陸ではエルディア人は迫害と差別を受けており、腕に腕章を付けることを義務付けられ隔離された地域でのみ生活が許されています。これは20世紀中頃までヨーロッパにあったユダヤ人居住区いわゆるゲットーをモチーフにしている事は明らかです。そしてこのエルディア人に対する差別がこの物語の発端でもあります。

他にも第一次大戦の西部戦線のような塹壕戦が描かれたり、子供を軍事訓練して前線に送り込むなど、現実の世界と変わらない悲惨な世界が描かれます。こういったデリケートな要素を物語の中に躊躇なく組み込めるのはアニメの利点だと思います。文化、歴史、宗教の制約を受けない日本アニメだからこそできた作品と言えるのではないでしょうか。
あえて粗探しをすると
ここまで進撃の巨人を褒めちぎってきましたが、粗がない訳ではありません。個人的に気になった部分をいくつか申し上げましょう。
まず1つ目はギャグシーンがそこまで笑えない、というか寒い。作者はたぶん笑かしにきているのでしょうが、正直かなり微妙です。
2つ目は恋愛の描写が下手。これははっきりと言い切れる。下手くそです。ここは上手くあって欲しかった。エレンとミカサ、アルミンとアニ、クリスタとユミルとライナー、リヴァイとハンジなど、作者が恋愛描写を上手くできればもっと広がったんじゃないかと残念な部分もありますが、まあ全てを求めるのは酷ですね。これら2つは作品の評価を下げるほどのものではなく、諫山先生の作風として許容できます。
しかし私が許容できない点が1つだけあります。それは軍事大国マーレがバックアップやフォローもなく12〜13歳の子供4人に国の命運をかけた重要任務を背負わせ、3年経ってやっとジークとピークを援護に向かわせた点です。軍事大国にあるまじき行き当たりばったりで成功確率の低い作戦が物語のきっかけとはちょっとお粗末ですね。

しかしこれら残念な点があったとしても、「進撃の巨人」が歴史に残る名作であるという私の確信は揺らぎません。私はこの作品をギリシャ悲劇やシェイクスピア悲劇に匹敵する大作であり、巨匠 手塚治虫先生の「火の鳥」と「アドルフに告ぐ」を足したような作品(足すだけで2で割りません)だと思っています。
少しネタバレしてしまいましたが、まだご覧になっていない方は是非是非 ご鑑賞ください!
ーおわり